SLEEP APNEA SYNDROME
SLEEP APNEA SYNDROME
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは睡眠中に無呼吸或いは低呼吸に陥る呼吸障害の総称です(診断基準は後述)。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は大きく分けて2つあります。1つ目は、空気の通り道である上気道が物理的に狭くなり、呼吸が止まってしまう閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)。2つ目は、呼吸中枢の異常による中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)です。ほとんどの方が閉塞性であり、まれに中枢性や混合性の方がいます。
睡眠時無呼吸症候群の症状は様々です。起床時の頭痛、抑うつ、日中の眠気や倦怠感、睡眠時に脳が覚醒状態となる中途覚醒、夜間頻尿、のどが乾く、男性の場合はインポテンツ、女性の場合は月経不順などがあります。また、この疾患による居眠り運転や作業事故も多いです。
そうは言っても明確に自覚できる症状がない場合もあり、家族等同じ部屋に寝る人がいない場合発見が遅れることが多々あります。
睡眠時無呼吸症候群によって息が止まっているからといってすぐに窒息死することはありません。問題は、本来体を休息する目的で行う睡眠中において、きちんと体の隅々まで酸素が送られていないこと(血中酸素飽和度の低下)や体幹部分(肺・心臓・胃等)が陰圧になることによる身体への負担、加えて無呼吸による覚醒反応の増加によって、脳疲労を回復する大切な時間帯である深睡眠の時間が減少することです。そういった睡眠状態が続くことで脳血管疾患、心疾患、生活習慣病の発症や悪化などを引き起こすリスクが上がります。最近の研究では睡眠時無呼吸症候群とうつ病や認知症も深い関連性があることも報告されており、基礎疾患中の基礎疾患と呼べるほど幅広く他の疾患と関連しています。
一般的な認識として肥満により下顎、首に脂肪が多く付いている男性を想像される方も多いです。もちろんそういった患者層も多い事は事実です。しかし「私はやせているから」「女性や子供のなる病気ではない」と決めつけるのは大変危険です。顎の小さい方や細身体型の若年から中年女性、平均身長・体重以下の成長過程の小児にも見受けられます。一方閉経後の女性や高齢者も罹患リスクは増加します。幅広い層で注意が必要な疾患なのです。
閉塞の型として舌が気道を塞ぐ舌根沈下型や病気(アデノイドなど)によって扁桃が肥大する扁桃腺肥大型、肥満による気道狭窄、女性や子供などもともと気道の狭い全周囲狭窄型、その他混合型があります。
このように睡眠時無呼吸症候群の原因は、骨格に由来する場合が多いです。顔が似ている直系家族がこの疾患の診断を受けているとすればその家族も睡眠時無呼吸症候群である可能性は非常に高いといえます。
睡眠時無呼吸症候群の検査は睡眠ポリグラフ検査にて行います。指先やカニューレを装着して眠っている間に呼吸状態を測定する検査です。簡易的なものは自宅、精密検査は脳波を測定するため入院(一泊二日)で行うことが一般的です。近年では、眠る場所が変わると眠れないという方や感染リスクが怖いという方のために自宅で精密検査を行える医療機関も増えてきています。
睡眠時に無呼吸のイベントが発生した後、時間差で血中の酸素濃度が下がります。こういったイベントが睡眠中に何回あるかを指標にしたものがAHI(無呼吸低呼吸指数:10秒以上の無呼吸低呼吸数/時間)であり重症度の指標となっています。
検査の結果AHIが5以上であれば睡眠時無呼吸症候群です。一般的には5~15未満は軽度、15~30未満は中等度、30以上は重度の指標となっています。その他にも睡眠ステージ(深睡眠の獲得状況)や血中酸素飽和度の推移などを総合的に勘案して最終的に診断されます。
睡眠時無呼吸症候群の治療は重症度によって対応が異なります。軽度~中等症のAHI20未満の場合はダイエット、睡眠中の体位指導、呼吸を楽にするための薬物療法、その他睡眠環境指導を行います。また、マウスピース、エアウェイ(鼻から舌根までの空気の通り道を確保する医療器具®ナステント)を用います。
AHIが20以上で深睡眠の獲得がなされていない中等度から重度の方はCPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)を保険診療で行うことが出来ます。CPAP療法とはコンプレッサとホースを介して繋がるマスクを装着し、空気の圧力を用いて睡眠中に発生する気道の閉塞を解消する治療法です。対処療法となるため疾患の完治が目的ではありませんが、日々睡眠中の無呼吸状態を解消することでその他の重大な合併症を防いだり、日中の眠気等を解消してパフォーマンスを上げることが期待できます。また睡眠中のホルモン分泌が上がることでダイエットの効率も期待できます。
CPAPは通信販売等で売られていることもありますが(40万円前後)、安易に購入することには注意が必要です。というのも家電と違い、装着のトレーニング、治療効果を高めるための設定、季節ごとの使用に対するトラブル対処が必要になってくることもあり、またマスク、ホース等の消耗品の交換も必要なためハードルが高いです。継続のアドバイスやCPAP設定の変更など相談をすることは意外と多いため、相談できるCPAPに詳しい医師やCPAP療法士(CPAP専門スタッフ)がいることが望まれます。
CPAP療法の医療費は1か月あたり3割負担の方で4,000円程です。CPAP機器のレンタル代、消耗品も含んでいます。この他に再診料、CPAPを使いやすくするための処方がある場合は処方箋料がかかります。
CPAP療法の他に気道閉塞の要因部分を減らす手術もありますが適用範囲及び効果が限定的な場合もあるので慎重な検討が必要です。他の身体疾患と同様定期検査の他、体型の変化や睡眠状態の変化があった場合は再検査を行います。その結果重症度が変化すれば別の治療法に移行することがあります。
この疾患を検査・診断・治療を行いたい場合はお近くの睡眠専門クリニックを受診されることをお勧めします。お近くに専門クリニックがない場合は睡眠時無呼吸症候群を取り扱っている耳鼻咽喉科、内科(呼吸器科、循環器科等)を受診してください。
医者はよく「お薬飲んでゆっくり寝ましょう」と言います。しかしこの疾患がある場合はしっかり寝ることが出来ず免疫力や抵抗力も低下するため病気の治りも悪くなります。感染症にも罹りやすく、重症化しやすいのも特徴です。決して後回しにはできない疾患ですので気になる方は早めに受診してください。